2026年8月22日、土曜日。この日の首相動静は二文で終わっている——「午前中は公邸で過ごす。午後も公邸で過ごす。」
同じ日、高市早苗はXに800字余りを投稿した。休日や平日の早朝・夜間はどうしても必要でない限り公邸から出ないようにしていること、公邸で持ち帰った資料を読みリモートで官僚と打ち合わせをしていること、官邸より少ない職員と警護官で済むことを書いている。公邸での執務は動静としては報じられないが、「公邸も職場」だというのが実感だ、とも記した。
同じ形の記録は時代をさかのぼっても出てくる。野田佳彦の2012年8月12日(日)は「終日、公邸で過ごす。」の一行だけ。安倍晋三の2013年8月3日(土)は「終日、東京・富ケ谷の自宅で過ごす。」で終わっている。
9月に入ると、記者側からも説明が出た。3日には文化放送の番組が取り上げ、6日にはジャーナリストの常井健壱氏がnoteで、首相動静は番記者の観察記録であり、出入りの見える官邸と違って公邸の中は外から見えない、という構造を指摘した。
この一文は「首相が何もしなかった」記録ではなく、「記者の観察で首相の移動が確認されなかった」記録である。公邸の中が動静に載らないという点では、首相本人の説明と記者の側の説明は一致している。7人の動静をそう読み直すと、終日居所の日は休日に集中し、平日の違いは公務時間の長短に表れる。公邸で行われた公務の載り方も、首相ごとに違う。
一文が記録しているもの
首相動静は、報道各社が首相の一日の行動を時刻付きで記録した記事で、首相官邸に詰める番記者の観察と、政府側の発表をもとに書かれる。官邸は出入りが把握できる。隣接する公邸は、中で誰と会っているかが外から見えない。電話やオンラインの会談は発表があれば載り、来客が記者の把握外にあれば載らない。
だから「終日、公邸で過ごす」は、記者の観察でその日に移動が確認されなかったことを示す定型文である。その中で資料を読んでいたのか、リモートで打ち合わせをしていたのかは、動静からはわからない。逆に、公邸に来客があって記者が把握すれば、その面会は動静に載る。載るか載らないかを分けるのは、公邸にいたかどうかではなく、記者が把握できたかどうかである。
本サイトが数えているのは定型文そのものではない。その日の時間配分がすべて居所(公邸・私邸・議員宿舎)での滞在として記録され、原文に移動も公務も記されていない日を「終日居所の日」としている。一文の形は収録元と時期で違う。朝日新聞の「終日、公邸で過ごす。」、2026年5月以降の「午前中は公邸で過ごす。午後も公邸で過ごす。」、日付ごとの表形式で収録した時期の「公邸」「私邸」の二文字——いずれも同じ一日として数える(詳細)。
この制約は7人に等しくかかる。安倍晋三の私邸も菅義偉の議員宿舎も、公邸と同じく外から中が見えない場所であり、同じ数え方で扱っている。以下で並ぶのは、首相の一日そのものの比較ではなく、記録の比較である。
歴代7人の終日居所の日
収録している7人・5,649日のうち、終日居所の日は232日、全体の4.1%にあたる。首相ごとに、2つの割合で見る。収録日全体に対する割合と、休日だけを分母にした割合である。
| 首相 | 収録日数 | 終日居所の日 | 全体に占める割合 | 休日数 | うち終日居所 | 休日に占める割合 | 平日の公務時間 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 菅 直人 | 175 | 8 | 4.6% | 56 | 8 | 14.3% | 12時間24分 |
| 野田 佳彦 | 481 | 30 | 6.2% | 158 | 28 | 17.7% | 12時間18分 |
| 安倍 晋三 | 2,813 | 59 | 2.1% | 937 | 57 | 6.1% | 13時間06分 |
| 菅 義偉 | 383 | 4 | 1.0% | 130 | 4 | 3.1% | 12時間08分 |
| 岸田 文雄 | 1,088 | 59 | 5.4% | 361 | 58 | 16.1% | 12時間31分 |
| 石破 茂 | 385 | 13 | 3.4% | 129 | 13 | 10.1% | 13時間34分 |
| 高市 早苗 | 324 | 59 | 18.2% | 109 | 58 | 53.2% | 10時間23分 |
「全体」は在任期間内の収録日数。「休日」は土日、国民の祝日・休日、12月29日〜1月3日で、「うち終日居所」は休日のうち終日居所だった日数。「公務時間」は居所での滞在・私的活動・分類できなかった時間を除いた1日の合計で、移動を含む(詳細)。
収録日全体で見ると、終日居所の日は菅義偉の1.0%から高市早苗の18.2%まで。休日に限ると、3.1%から53.2%まで開く。232日のうち平日は6日しかなく、終日居所の日はほぼ休日に限られる。平日の違いは日数ではなく公務時間の長さに出ていて、右端の列は10時間23分から13時間34分まで幅がある。
平日の6日はすべて8月にある。野田佳彦の2012年8月13日(月)と16日(木)、安倍晋三の2017年8月22日(火)と2020年8月18日(火)、岸田文雄の2023年8月16日(水)、高市早苗の2026年8月14日(金)。うち4日は8月13日から16日の間に集中し、8月の記事で見た休日側の短さの延長線上にある。
休日の中では土曜より日曜が多く(菅直人と石破茂は同数)、月曜から金曜に当たる祝日は7人とも日曜を下回る。高市早苗で見ると日曜65.2%、土曜50.0%、祝日30.8%。
在任の長さが違う7人を就任からの同じ324日で切りそろえても、全体に占める割合は安倍晋三の0.3%から高市早苗の18.2%までで、在任全体で見た幅とほぼ重なる(菅直人は収録が48日分のみ)。ただし同じ首相でも年によって動く。安倍晋三の休日の割合は2013年の1.7%から2019年8.0%、2020年14.8%へ、岸田文雄は2022年10.7%から2024年19.8%へ上がっている。
高市早苗の11か月
現職の高市早苗は、収録324日のうち59日、全体の18.2%が終日居所の日にあたる。月別に、同じ2つの割合で見る。
| 月 | 日数 | 終日居所の日 | 全体に占める割合 | 休日数 | うち終日居所 | 休日に占める割合 | 平日の公務時間 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025年10月 | 11 | 0 | 0.0% | 2 | 0 | 0.0% | 14時間16分 |
| 2025年11月 | 30 | 3 | 10.0% | 12 | 3 | 25.0% | 11時間03分 |
| 2025年12月 | 31 | 7 | 22.6% | 11 | 7 | 63.6% | 10時間37分 |
| 2026年1月 | 31 | 5 | 16.1% | 12 | 5 | 41.7% | 9時間32分 |
| 2026年2月 | 28 | 5 | 17.9% | 10 | 5 | 50.0% | 10時間25分 |
| 2026年3月 | 31 | 6 | 19.4% | 10 | 6 | 60.0% | 10時間24分 |
| 2026年4月 | 30 | 6 | 20.0% | 9 | 6 | 66.7% | 9時間47分 |
| 2026年5月 | 31 | 6 | 19.4% | 13 | 6 | 46.2% | 10時間30分 |
| 2026年6月 | 30 | 5 | 16.7% | 8 | 5 | 62.5% | 12時間11分 |
| 2026年7月 | 31 | 6 | 19.4% | 9 | 6 | 66.7% | 10時間53分 |
| 2026年8月 | 31 | 9 | 29.0% | 11 | 8 | 72.7% | 7時間22分 |
| 2026年9月 | 9 | 1 | 11.1% | 2 | 1 | 50.0% | 8時間18分 |
2025年10月は就任日(10月21日)からの11日間、2026年9月は9日までの集計。平日の終日居所の日は2026年8月の1日のみ。
全体に占める割合は、就任翌月の2025年11月が10.0%で最も低く、12月以降は16.1%から29.0%の間を上下する。休日に限っても同じ形で、41.7%から72.7%の間にある。増え続ける形にも減り続ける形にもなっていない。平日の公務時間も、2025年10月の14時間16分(就任からの11日間)を別にすれば、7時間22分から12時間11分の間で動く。
住まいの変化とも対応していない。公邸に移ったのは2025年12月29日だが(宿泊先の記事)、それ以前の議員宿舎の時期(2025年11月8日から12月28日)にも「東京・赤坂 衆院議員宿舎」だけで終わる日が9日ある。
公邸で行われた公務は載るか
公邸の中の予定が動静に載らないわけではない。居所(公邸・私邸・議員宿舎)で公務が記録された日の割合は8.9%から30.3%まで開く。
| 首相 | 集計日数 | 居所で公務が記録された日 | 割合 | 主な内容 |
|---|---|---|---|---|
| 菅 直人 | 171 | 42 | 24.6% | 公邸での官房副長官・党幹部との面会 |
| 野田 佳彦 | 447 | 82 | 18.3% | 公邸での面会、正副官房長官らとの会食 |
| 安倍 晋三 | 2,474 | 639 | 25.8% | 公邸での首相主催の夕食会、私邸での面会、インタビュー |
| 菅 義偉 | 370 | 74 | 20.0% | 議員宿舎・公邸での首相補佐官らとの面会 |
| 岸田 文雄 | 976 | 287 | 29.4% | 朝の官房副長官らからの報告、夕食会、インタビュー |
| 石破 茂 | 360 | 109 | 30.3% | 官房副長官からの報告、秘書官との打ち合わせ、インタビュー |
| 高市 早苗 | 302 | 27 | 8.9% | 官房長官・官房副長官との面会、インタビュー、会食 |
各首相の収録日から、その日の大半を外遊が占める日(7人で549日)を除いた集計。「割合」は居所での公務の記録が1件以上あった日の割合。
載る中身は、首相ごとに時間帯が違う。岸田文雄は朝で、居所での記録530件のうち113件が午前10時前。2024年9月18日は8時30分から38分まで公邸で官房副長官3人、内閣危機管理監、国家安全保障局次長らと会っている。石破茂も官房副長官からの報告が多く(青木一彦氏24件、橘慶一郎氏18件)、2025年10月5日には15時から18時4分まで「秘書官と打ち合わせ」と記録されている。
菅義偉は昼で、199件のうち179件が午前10時から午後4時台、和泉洋人首相補佐官との面会が24件。安倍晋三は夜で、1,063件のうち785件が午後5時以降、「安倍晋三首相主催の夕食会」が31件。私邸にも記録があり、2020年8月15日は14時27分から15時23分まで麻生太郎副総理兼財務相と会った。菅直人と野田佳彦も夜が多く、2012年12月1日の野田佳彦は22時台に公邸で玄葉外相、森本防衛相、藤村官房長官、米村内閣危機管理監らと会っている。
高市早苗は居所での記録が33件で、うち19件が午後5時以降。2026年9月6日は12時52分から15時31分まで木原稔官房長官、8月24日は20時から22時までウクライナに関する有志国連合オンライン首脳会合。報道各社のインタビューが7件、6月26日には自民党の有村治子総務会長らとの会食。投稿にある資料読みや官僚とのリモートの打ち合わせは、動静の行にはならない。動静に残るのは、8月24日の首脳会合のように発表を伴うものである。
ただし、この割合が示すのは居所で何が行われたかの全体ではなく、動静に載った分である。 記者が把握した来客や会合だけが行に変わる。割合の高低は、居所で行われたことの量をそのまま表さない。「終日居所の日」も同じで、公務があったことの記録でないのと同じように、公務がなかったことの証明でもない。
9月19日から23日の5連休は、国連総会の日程(一般討論演説は22日に予定)と重なる。この期間の動静がどうなるかは、日々の更新で追っていく。
データについて
「終日居所の日」は、その日の時間配分がすべて公邸・私邸・議員宿舎での滞在として記録され、原文に移動と公務の記述がない日と定義した。時間配分の上では全時間が居所滞在でも、原文に時刻を伴う記述がある日は除外した。該当は高市早苗の2日で、2026年5月23日は原文に自民党本部への外出があり、2026年3月15日は「公邸 秘書官から中東情勢について聴取」の記録がある(本サイトの分類では居所での滞在として扱われているが、本記事では公務の記録として扱った。後述の居所での公務の集計には含めておらず、含めると高市早苗は302日中28日、9.3%になる)。
終日居所の日の原文は収録元で異なる。2011〜2014年の朝日新聞の記事は「終日、公邸で過ごす。」(安倍晋三は「終日、東京・富ケ谷の自宅で過ごす。」、野田佳彦には「終日、東京・赤坂の衆院議員宿舎で過ごす。」が1日)。2014年9月から2026年4月までの日付ごとの表形式の収録分は「公邸」「私邸」「東京・赤坂 衆院議員宿舎」の場所名だけ。2026年5月以降の朝日新聞は「午前中は公邸で過ごす。午後も公邸で過ごす。」で、8月11日のみ「終日、公邸で過ごす。」。時事通信の記事で収録した日は「終日、公邸で過ごす。」。いずれも同じ一日として数えた。
8月の記事の「公務記録がない日」とは範囲が違う。あちらは公務時間が0分の日で、私的な行動だけが記録された日を含む。両者の差は7人合計で36日。高市早苗の2日は上記の除外した2日で、残りは私的な行動だけが記録された日にあたる。
「休日」は土日、内閣府の一覧に基づく国民の祝日・休日、および12月29日から1月3日までとした。8月の記事は土日と山の日・振替休日だけを休日としているため、そちらの割合とは一致しない。「公務時間」の定義は8月の記事と同じ。
居所での公務の集計からは、その日の大半を外遊が占める日を除いた(7人で549日)。海外では「首相公邸」が相手国首相の公邸を指す場合があり、国内の居所と区別できないためである。記録の書き方も時期で異なる(2011〜2012年の収録分は退出も別の行として数えている)ため、件数そのものは首相の間で比較していない。
対象は各首相の在任期間内の収録日。菅直人の収録は2011年3月11日から始まる。岸田文雄には記録の行がない日が2日ある(2021年10月5日、2022年5月14日)。収録元は時期によって異なり、2026年4月末以降は朝日新聞、一部の日は時事通信の記事による。朝の最初の公務の記事も同じデータによる。収録範囲と分類方法は「サイトについて」を参照。