官邸ログが収録する歴代7人の首相、計5,624日分の動静データから、夜の居所を集計した。公邸に泊まるかどうかは、首相ごとにまったく異なる。
7人の全体像
| 首相 | 日数 | 公邸率 | 公邸以外の主な居所 |
|---|---|---|---|
| 菅 直人 | 175 | 94.9% | — |
| 野田 佳彦 | 481 | 85.9% | 議員宿舎 4.4% |
| 岸田 文雄 | 1,088 | 83.0% | 海外 9.1%、議員宿舎 5.8% |
| 高市 早苗 | 299 | 70.9% | 議員宿舎 20.1% |
| 石破 茂 | 385 | 65.5% | 議員宿舎 20.8% |
| 安倍 晋三 | 2,813 | 22.5% | 私邸 59.4% |
| 菅 義偉 | 383 | 1.3% | 議員宿舎 94.5% |
菅直人から岸田文雄まで、多くの首相は在任中の8割以上を公邸で過ごしている。高市早苗と石破茂も7割・6割台で、公邸が主な居所であることに変わりはない。
公邸率が際立って低い首相が2人いる。安倍晋三の22.5%と、菅義偉の1.3%だ。
なぜ公邸率に差が出るのか。その背景を理解するには、公邸という場所そのものを知る必要がある。
首相公邸は首相官邸に隣接し、有事に首相が即座に危機管理センターへ移動できるよう設けられた住居だ。公邸率94.9%の菅直人の在任期間には東日本大震災(2011年3月11日)が含まれる。地震発生から数十秒で隣の官邸に入れる距離——それが公邸の存在理由だ。
一方で、現在の公邸は五・一五事件(1932年)や二・二六事件(1936年)の舞台となった旧官邸を2005年に改修したもので、「幽霊が出る」という逸話が繰り返し報じられてきた。改修後に入居した首相は6人が連続して約1年の在任に終わり、「入居すると短命」というジンクスも語られた(このジンクスは後に岸田文雄が在任約1,000日で覆している)。
危機管理の要請と、忌避される歴史。公邸にはこの両面がある。
安倍晋三——私邸から通った首相
安倍晋三の第2次政権(2012〜2020年)では、2,813日のうち59.4%にあたる1,672日を渋谷区富ヶ谷の私邸で過ごした。公邸での宿泊は633日、22.5%にとどまる。残りは海外出張(7.8%)、ホテル・旅館(3.2%)、そして別荘(3.1%、87日)だった。別荘は山梨県鳴沢村の富士山麓にあり、夏休みや年末年始にゴルフを楽しむ拠点として動静データにたびたび登場する。
就任初年の2013年は公邸率が8.8%と特に低く、ほぼ毎日を私邸で過ごしていた。翌年から約25%に上がり、以後2019年まで安定する。最終年の2020年は新型コロナウイルスの影響で再び私邸中心に戻り、公邸率は12.7%に低下した。
安倍は第1次政権(2006〜2007年)では公邸に入居していたが、約1年で退陣している。2012年に再び首相となった際は私邸を選んだ。2015年2月の衆議院予算委員会では、「自宅の方がゆっくりと休息できる」「(官邸まで)15分で、危機管理対応にもほとんど支障がない」と答弁している。報道では、妻の昭恵氏が第1次政権時の公邸生活に難色を示したことも伝えられた。前述の「短命ジンクス」との関連を指摘する声もある。
菅義偉——議員宿舎から通った首相
菅義偉の在任中、議員宿舎での宿泊は362日で94.5%を占める。公邸に泊まったのは5日、1.3%にすぎなかった。
この選択は首相就任に始まったものではない。菅は2012年12月に官房長官に就任した際、官房長官公邸への入居を検討したが、妻が難色を示し議員宿舎を選んだことが国会の質問主意書に記録されている。首相就任後も事情は変わらず、議員宿舎からの通勤が続いた。
菅が暮らしていた赤坂の衆議院議員宿舎は、官邸から約1.5kmの距離にある。
公邸に戻る
岸田文雄は2021年12月に公邸に入居した。野田佳彦以来、9年ぶりだった。在任1,088日のうち83.0%を公邸で過ごし、公邸生活の「標準」を回復させた。
高市早苗と石破茂は、いずれも就任当初は議員宿舎から通い、途中で公邸に移っている。データ上、両者の議員宿舎率がそれぞれ20.1%・20.8%と高いのは、この移行期間を含むためだ。
石破茂は2025年1月に公邸に入居した。幽霊伝説について問われると、「オバQ世代なので恐れない」と語っている。
高市早苗が公邸に移ったのは2025年12月29日のことだ。同月、青森県で震度6強の地震が発生し、深夜の対応で議員宿舎から官邸への移動に時間を要した。高市はXに「危機管理は国家経営の要諦だ」と投稿し、公邸への転居を決めている。
データについて
各日の宿泊場所は、当日の最終所在地記録をもとに判定した。「公邸」「私邸」「議員宿舎」「ホテル」「別荘」などのキーワードで分類し、海外滞在は場所区分フラグも併用している。判定できなかった日は全体の3.0%(169日)で、主にデータが欠落している日や空港・党本部で日程が終わっているケースによる。データの収録範囲は「サイトについて」を参照。