2025年10月21日、22時。高市早苗はまだ官邸にいた。就任から数時間、記者会見を終えると23時11分に初閣議、23時32分に閣僚と記念撮影、23時37分に補佐官への辞令交付。新政権の最初の1日は、深夜の手続きの連続で終わった。
これは例外的な夜だ。では、普通の夜は何時に終わるのか。
歴代7人の首相について、1日の最後の公務が終わる時刻を集計した。そこに朝の開始時刻を重ねると、意外な規則性が現れる。朝が早い首相は、夜も早い。朝が遅い首相は、夜も遅い。そして7人中6人の「公務の時間枠」は、約12時間でほぼ揃っている——窓の位置が違うだけで、窓の大きさはほぼ同じだ。
朝と夜を重ねると
| 首相 | 平均開始 | 平均終了 | スパン |
|---|---|---|---|
| 石破 茂 | 8:06 | 20:47 | 12時間41分 |
| 菅 直人 | 8:13 | 20:48 | 12時間35分 |
| 菅 義偉 | 7:37 | 20:03 | 12時間25分 |
| 安倍 晋三 | 8:28 | 20:49 | 12時間21分 |
| 野田 佳彦 | 7:59 | 20:20 | 12時間21分 |
| 岸田 文雄 | 8:36 | 20:16 | 11時間40分 |
| 高市 早苗 | 9:18 | 19:39 | 10時間21分 |
いずれも月〜金の平均で、外遊日は除外した(詳細)。スパンは日ごとの開始〜終了の差を平均した値のため、表の開始・終了(それぞれ丸めた平均)の差とは1分前後ずれる場合がある。
菅義偉は7:37に始まり20:03に終わる。安倍晋三は8:28に始まり20:49に終わる。開始が51分遅いぶん、終了も46分遅い。高市早苗を除く6人のスパンは11時間40分から12時間41分まで、約1時間の幅に収まる。朝と夜の時刻はそれぞれ異なっていても、「公務に費やす時間枠」は共通している。
高市早苗のスパンは10時間21分で、最も近い岸田文雄と比べても1時間19分短い。在任がまだ短いため、今後変化する可能性がある。
菅義偉のスパンは12時間25分と他の首相と同水準だが、そのうち約1時間は日中に居所へ戻る時間にあてられている。他の首相では10〜20分程度だ。朝早く始めて夜早く切り上げるが、日中の過ごし方にも独自のリズムがある。
7人の最終公務時刻
| 首相 | 平日数 | 平均 | 21時以降 | 22時以降 | 23時以降 |
|---|---|---|---|---|---|
| 安倍 晋三 | 1,844 | 20:49 | 47.3% | 18.1% | 9.0% |
| 菅 直人 | 122 | 20:48 | 44.3% | 20.5% | 10.7% |
| 石破 茂 | 250 | 20:47 | 46.4% | 16.0% | 5.6% |
| 野田 佳彦 | 338 | 20:20 | 34.6% | 17.2% | 11.5% |
| 岸田 文雄 | 701 | 20:16 | 30.8% | 11.3% | 5.6% |
| 菅 義偉 | 266 | 20:03 | 15.8% | 6.4% | 3.8% |
| 高市 早苗 | 210 | 19:39 | 19.5% | 13.8% | 9.0% |
最終時刻は公邸・私邸での滞在を除いた、最後の公務的活動の終了時刻を示す。全体では平日の約4割が21時を超えている。なお野田佳彦は20時以降の詳細な記録がない日が多く、最終時刻が深夜側に延びて集計されている日を含む(後述)。
安倍晋三の平日はほぼ2日に1日が21時を超えていた。菅直人と石破茂もほぼ同水準で並ぶ。収録された平日数は122日から1,844日まで大きく異なるが、夜の終わり方は似ている。
菅義偉は21時以降率15.8%と7人中最も低い。朝の開始時刻でも最も早かったが、夜も最も早い。後述するように、21時以降の会食が極端に少ないことが関係している。
高市早苗の平均は19:39と7人中最も早い。しかし23時以降率は9.0%と菅義偉(3.8%)の2.4倍ある。冒頭の就任当夜や、2026年7月の国会あいさつ回りなど、特定の日に集中して深夜化したことが影響している。
21時以降に何をしているか
21時以降の時間帯に重なる公務の内訳を種別ごとに集計した。外遊に分類される活動は除外している。
| 種別 | 割合 |
|---|---|
| 会食 | 30.2% |
| 移動 | 19.8% |
| 公務(内容未詳) | 18.0% |
| 面会・会談 | 15.8% |
| 取材・会見 | 8.4% |
| その他 | 7.8% |
全体では会食が3割を占めるが、首相ごとに見るとまったく異なる構成になる。
安倍晋三の夜は会食の場だった。21時以降の時間の37.1%が会食で、19時以降に始まった会食は在任中計506回に及ぶ。場所別では公邸が177回で最も多く、ザ・キャピトルホテル東急(27回)、迎賓館(24回)が続く。夜の会食が日常的な政治コミュニケーションの手段になっていた。
菅義偉はその安倍晋三と対照的だ。会食はわずか3.8%にとどまり、代わりに取材・会見が22.4%を占める。新型コロナウイルス対応の記者会見が夜に及んだことと符合する。菅義偉の最終時刻が7人中最も早いのは、会食のない夜はそのまま帰宅していたことの裏返しでもある。
菅直人は面会・会談が34.4%で最多だ。本サイトの菅直人のデータは東日本大震災当日の2011年3月11日に始まり、収録期間のすべてが震災後にあたる。20時以降の面会記録を見ると、3月11日当夜の海江田経産相・福山副長官に始まり、翌週にかけて細野補佐官、北沢防衛相、折木統合幕僚長、枝野官房長官の名が繰り返し現れる。原発事故と災害対応の渦中にあった政権の夜が、そのまま数字に出ている。
石破茂は移動が24.1%と高い。19時以降の会食ではホテルニューオータニが21回で最多、公邸(11回)を上回る。安倍晋三の会食が公邸に集中していたのに対し、石破茂は外部の会食場所が全体の7割以上を占める。
岸田文雄は特定のカテゴリに偏らず、比較的バランスの取れた構成だ。高市早苗は会食が0.4%で、在任がまだ短いため今後の推移を見る必要がある。
24時まで続いた日
公務が日付の変わる直前まで続く日もある。分類すると、いくつかのパターンが見える。
国際情勢への対応——2022年2月24日、岸田文雄はウクライナへのロシア侵攻を受けて23時16分からG7首脳テレビ会議に参加した。2012年5月11日には野田佳彦が22時にロシアのプーチン大統領と電話会談を行っている。時差のある相手との外交は、夜を選ばない。
国会対応——2026年7月24日、高市早苗は22時52分開会の衆院本会議に出席した後、衆参両院の各会派へのあいさつ回りを行い、24時近くまで国会内にとどまった。
野田政権の特徴——野田佳彦は24時以降まで延びた日が平日の8.9%(30日)と、比率で7人中最も高い。ただしこの30日の多くは20時以降の詳細な活動記録がなく、最後の公務区間が深夜まで延びて集計されている。冒頭の表で野田佳彦の23時以降率が最も高いのも、主にこの影響による。
データについて
「最終公務時刻」は、各日の時間配分データのうち、公邸・私邸での滞在と個人的活動を除いた最後の区間の終了時刻として算出した。
外遊日は集計から除外した。外遊日は日本時間で深夜まで活動記録が続くことがあり、国内の「夜の終わり方」とは性質が異なる。判定方法は朝の記事と同じく、その日の最初の公務が海外で行われたかどうかに基づく。
21時以降のカテゴリ内訳では、各時間配分区間のうち21:00以降に重なる分数を種別ごとに合算した。外遊カテゴリは海外滞在のデータが含まれるため除外している。会食場所の集計では、同一施設の表記ゆれ(所在地表記の有無など)をまとめて数えている。「朝と夜を重ねると」のスパンは、公務開始時刻(朝の記事と同じ算出方法)と最終公務時刻の差である。開始時刻は朝の記事の公開後に追加された日を含めて再集計しているため、高市早苗の平均開始(9:18)は朝の記事に記載した値(9:16)からわずかに更新されている。
公務記録のない日(外遊の中日、休日、データ欠損など)は集計から除外した。データの収録範囲と分類方法は「サイトについて」を参照。
首相ごとの会食場所の傾向は、別の記事で改めて分析したい。